規則、ルール、風紀を守ることも管理職の大切な役割です。
これらに事なかれ主義は通じません。モチベーション、生産性の低下、必ず回り回って自分に多大な影響を与えます。
かといって、「それはダメ」「これはダメ」「あれはダメ」と言うだけではうまくいかないという事は、部下を持つ立場の人であれば、おそらく周知の事実。
様々な人がいるから様々なことが起こる、それらにどう対処するのか?ということに頭を悩ませる方もいるでしょう。
職場規律が乱れることによる影響
職場の規律が乱れることで、どのような影響が出るのでしょうか。「職場・従業員」と「企業」への影響をそれぞれ抜き出してみます。
職場・従業員への影響
- 規則、ルールを軽視する
- 上司の見えないところでハラスメントが行われる
- 従業員が勝手な行動をとり、職場が乱れる
- 手抜きを覚え、立ち回りを優先する従業員が増えてくる
- 優秀な従業員のモチベーションが下がる
- 退職を意識、または実際に退職してしまう
- 上司の信頼、信用が失われる
- 組織内における上司のコントロールがきかなくなる
企業への影響
- 優秀な人材が流出し、生産性や効率の悪い従業員ばかりが残る
- 情報が隠蔽、または歪曲されてしまい、正確な情報が必要なときに入ってこない
- 業務の生産性や質が低下する
- 顧客や得意先の評判が下がる
ざっと抜き出しても、考えられる影響はこれだけあります。
これらは一部ですが、全ては小さなほころびから大きな問題へと発展するでしょう。
問題が大きくなる具体例
例1:遅刻
ある日、従業員が始業時間を数分遅れて出社した。
上司は遅刻に気付いたが、彼の仕事振りは真面目で成績も優秀。「どうしたのだ?」と思ったが、「遅れたことについては反省してるだろう」と考え、”数分の遅れ”だったこと、また、”普段遅刻をするような人間ではない”という思い込みから、彼には特に注意をしなかった。
しかし、この程度の遅刻では注意されないことが分かった従業員は、しばしば遅刻を繰り返すようになる。
当然、日々時間を守って出社している周りの従業員はこの状況を見て、「なぜきちんと注意しないのか」と不満を言い合うようになる。
始めは上司の対応に不満を感じる程度だったものが、最近では「真面目に始業時間を守るのが馬鹿らしい」と思うようになり、始業時間が軽視されるまでに至る。
結果としてその部署は始業時間から5~10分経ってようやく業務が始められる状態にまでなっており、5分前行動ならぬ、5分後行動。
業務に対する姿勢がルーズなり、効率性や生産性に悪影響を及ぼしている。
例2:パワハラ
中途入社した従業員が職場になじめず、その影響でしばしばミスを起こしていた。
能力的な問題に加え、職場のリーダーと性格が合わないこと、また、リーダーが中途採用された従業員を嫌っており、職場の同僚に印象操作を行っていたため、表面上何もないように振舞っていたが、「リーダーをはじめとする職場全員対中途採用者」の構図になっており、実質的に仲間外れのいじめが行われていた。
結果的に、中途採用者は退職することになり、この従業員より少し前に入社した新卒社員は、仕事の覚えが早く将来有望と周りから期待されていたが、先輩たちのいじめを目の当たりにし、恐怖を感じて退職してしまった。
例3:セクハラ
女性社員がセクハラ被害を受けたと上司へ相談した。
相談を受けた上司は事情を聞いて同調し、一旦女性社員の話を聞いて落ち着かせた。しかし上司はこれで収まったと思い込んでしまい、問題を大きくすることを危惧したことから自分の中だけでしまいこんで放置してしまった。
後に再びセクハラが発生。加害者からの謝罪がなく、上司(会社)が対策を講じなかったことに腹を立て、女性従業員が出社拒否をする事態となった。
出社拒否が起きた後も上司は個別に女性社員への対応にあたっており、埓があかないと考えた女性社員は労働基準監督署に相談をもちかけた。
このことから女性従業員全体が会社の対応に不満・不信を抱く結果となり、従業員のモチベーションに多大な悪影響を及ぼす自体に至っている。
例4:自己主張
現場主任は、職場環境改善の為に部下の意見を組み上げて仕事を分担、全員で効率を上げていこうと考えていた。
しかし、「これはできない、やりたくない」と、全体を考えず自らの主張だけを押し通す従業員がおり、グループ全体をまとめきれなくなった。
次第に特定の従業員に仕事が集中するようになり、全体の効率が低下。主任は上司に相談したものの、埓があかず、ストレスを抱えて退職してしまった。
これまでなんとか持ちこたえていた他の従業員も嫌気がさしてしまったようで、その後退職者が相次ぎ、効率性・生産性の低い従業員のみが職場に残った結果、収拾がつかない事態に陥っている。
トラブルの傾向
上記以外にも社内風紀の乱れや勤務態度、つまりは一部の従業員の行動により職場の規律が乱され、それが大きな問題に発展するという事例は数多くあると思います。
職場規律の乱れに関しては、その問題を起こす従業員だけを責めてもなかなか問題解決にならないのが実態でしょう。なぜなら、発端はある従業員の問題行動だったとしても、そもそも上司(会社)自体が規律の乱れに対する対応や意識に不足があれば、いつまでたっても本質的な問題解決にはならず、また別の問題が発生してくることが少なくないからです。
職場の規律を確保し、職務に集中できる職場環境を保つためには、上司が目を配り、話を聞き、対応が難しい案件であれば上に報告して指示を仰ぐ等の柔軟で早急な対応を講じていくことが求められています。
潜在的な職場規律の乱れ
例1のような遅刻する、勝手に休むなど、社内ルールに違反していることが明確なタイプの場合は、注意指導を行ったり、場合によっては制裁を科したりするなど、比較的対応しやすい事例といえるでしょう。
一方で、ルール違反なのかどうか、判断や認識が難しいものもあります。例2.3がこれに該当します。
問題が表面化すれば対応しやすいのですが、現実には潜在していることが多く、対応が難しいでしょう。
「明確なルール違反」「潜在的規律の乱れ」どちらも問題ですが、潜在的な規律の乱れは表面化しにくく、表面化する頃には既に大事になっていることが多い。
一見、職場が普段通り機能しているようで、陰では手を抜いたり、一部の従業員が過剰に負担を強いられているといったことがあります。例2のようなパワハラがあると、従業員の定着率は非常に悪くなるでしょう。
企業としては職務規約や規律、ルールに関して、コンプライアンス然りきちんと対応しているから問題ないと考えるのでしょうが、現場レベルの潜在的職場規律の乱れに目を向けて対策をしている企業は多くありません。
最近では例4のような自己主張ばかりをする従業員の悩みをよく聞きます。このタイプは職場の規則やルールをある程度認識しており、明らかなルール違反は見られない場合が多く、しかし一方で自己中心的な考えに基づいて行動し、職場をかき乱すため、対応に苦慮することがある特殊なタイプといえます。
職場規律の乱れ要因は何か?
規律の乱れは特定の従業員の問題と思われがちですが、同時に企業や管理職側の対応にも問題がある場合がほとんどです。
従業員側の問題
- 意識的な甘えがあり、自己中心的行動がみられる
- 自らの言動に対し、問題はないと思っている
- 社会人としてのマナーや一般的ルールに対する教育訓練を受けていない
- 問題の程度を軽視し、周囲に問題行動をとる者がいると自分も構わないと思いがち
- 職場のルールやマナーを知らない、理解していない
企業・管理職側の問題
- ルール違反があっても管理職が注意指導しない
- 管理職が注意指導の仕方を知らない
- 職場ルールは当たり前、社会常識だと思い込んでいる
- 会社側が管理職の指導教育についてフォローする環境が整っていない
- 従業員として守るべきルールや基準を企業が示していない
- ルール違反が繰り返されても制裁処分をせず放置している
- 就業意識や雇用形態の多様化に対応出来ていない
上記にあげた以外にも、様々な要因が考えられます。
一つの要因が職場規律を乱しているということではなく、複数の要因が重なり合って職場の規律が乱れていると考えるべきでしょう。
例えば、若い世代の従業員と話が合わないという管理職は少なくありません。文化や価値観の違いから考え方や行動が理解しずらい。いわゆるジェネレーションギャップを感じる一方で、なぜか職場規律、社会常識的なことについては、いちいち言わなくとも分かるはずだと考えがちです。
入社後の新人教育や研修の場で、職場のルールというものをきちんと教える企業がどのくらいあるでしょうか?または、出勤初日の新入社員に対し、施設案内や今後の仕事内容を教えるだけではなく、職場規律についてきちんと教えるという管理職はどのくらいるでしょうか?
本来、企業によって職場規律に関するルールやその基準が違うため、それぞれ具体的に教育する必要がありますが、それらを怠っているために互いの認識ギャップは埋まらず、問題が解消されないのです。
非正規雇用の従業員が増えてくれば、就労形態はより複雑化し、多様な価値観をもった従業員が職場に増えてきます。
非正規と正規の仕事に対する線引きはどのようにするのか?これ一つとっても、職場によって難しい問題もあるでしょう。
職場の規律に関する認識のギャップは、今後さらに拡大してくるのです。
例1や例4のように、「仕事の上ではたいした問題ではない」または「なんとかなるだろう」と考える管理職は意外なことに少なくありません。
こうした上司は、従業員にちょっとしたルール違反が見られても、そのうち本人が気づくだろうと考え、その都度注意指導することをしません。または人によって対応が変わります。
周囲の従業員は、管理職の対応や仕草、立ち振る舞いをよく観察していますから、「なんで何も言われないんだ?こっちはまじめにやってるのに」「あの人は言っても動かない、動こうとしない、そもそも気にしてないんだろうか・・・」と、ある程度のルール違反なら許されることを知ってしまいます。そうなると、ルールがルールとして機能しなくなり、次第に規律が緩んできます。
また、管理職の中には、ルール違反が生じた際、職場の従業員同士の働きかけで改善されることを望む人がいます。しかし、従業員同士の働きかけで規律が維持されるような意識の高い職場は稀でしょう。
同僚に対して注意することは非常に勇気のいることですし、もしそこに意見の食い違いがあれば互いの関係に影響を及ぼすことにもつながります。どちらかと言えば人間関係で波風を立てたくない、長いものには巻かれろと考えるタイプが多い日本ではあまり期待出来ません。
したがって、職場規律の改善、維持、向上は管理職が職責を利用して行うべきです。
職場規律を守るために
職場の規律を乱す者が出てこないようにするには、当然ながら職場のルールをきちんと守らせることが大切です。
そもそも職場のルールとは何なのか、どのような基準なのかを従業員に周知し、内容を理解させておかなければなりません。
就業規則
大抵、企業には従業員の労働条件や守るべき服務規程などを具体的に定め、労働基準監督署に届け出ている規則があります。
就業規則には、服務として守るべき事項、またそれらを乱した場合の懲戒といった制裁処分を定める明確な記載がありますから、それらをきちんと周知させておくことが重要です。
しかし、実際の職場をみると、就業規則がほとんど活用されておらず、管理職と従業員の認識ギャップを埋めるものとして機能していません。
そもそも労働基準法おいて、就業規則は「常時各事業所の見やすい場所へ掲示、または備え付けること、書面を交付することなどによって労働者に周知しなければならない」ものです。
企業によっては社内HP内で閲覧可能であったり、内定書類等と合わせて渡す場合がありますが、これらはただ「これ見といてね」程度にせず、きちんと従業員に周知、確認し、記録簿等を作成して捺印をとるなどするべきです。
ルールブック
就業規則は法的効力をもたせるため、非常に堅く、内容も細かく作られています。
内容を網羅している点ではこれに勝るものはありませんが、回りくどい、わかりづらい表現が含まれるのも事実。現場レベルで管理職と従業員の間に職場のルールや基準といった共通認識を持たせるために、就業規則を補填する「職場のルールブック」の作成が効果的です。
ルールブックは就業規則でいう服務における心得を中心として、従業員が守るべき事項を分かりやすく表現しなおしたものです。
就業規則との違いは、職場における重要な、または発生頻度が高いと思われるテーマを徹底するために重点的かつ具体的にその行動基準を明確にすることを目的とします。
例えば、
【勤務時間に関すること】
イ)勤務・休憩時間
勤務時間は原則として次の通りです。
始業時間 終業時間 休憩時間 8時25分 17時25分 12時から13時 なお、業務都合により時間が変更となる場合がありますが、その際は事前に連絡します。
ロ)始業時間
始業の準備を整えて、予定の始業時刻に受待ちの業務を開始出来るようにしてください。
なお、当日急病などで遅刻・欠勤をする場合には、8時までに直接〇〇(上司名と連絡先)まで連絡してください。〇〇不在時には、代わりのものに連絡先を伝えてください。ハ)終業時間
予定終業時間まで受持ち業務を行ってください。残業を必要とする事情がある場合は上司に相談・報告し、指示を受けてください。
上記は始業~終業までの時刻を明確にするルールです。
他にも有給取得の手順等を含ませることで就業における基本ルールを示し、周知を図ります。
業務上の不正、情報流出を防ぐための禁止行為等、絶対にやってはならないことなどを示すことも必要です。
【禁止事項】
職場のパソコン端末を利用したインターネット接続は、業務に関係ないwebサイトへのアクセス、また私的なことに使用してはいけません。企業の情報漏えいにつながる恐れがあるため、発見した場合は、就業規則に基づき厳重に処分します。
管理職の職責を超えて、企業の信頼を落とす危険性のある行為を防ぐためには、職場で考えられる禁止事項のポイントは必ず抑えておくべきです。
また、禁止行為として、注意行動や注意発言を示し、ハラスメントや職場のいじめを防ぐことを図ります。
【ハラスメントにつながる要注意発言】
次のような発言は、職務と直接関係がなく、セクハラ・パワハラにつながる可能性があります。
- 「結婚まだ?」「子供はまだ?」
- 「彼氏・彼女はできた?」
- 「男のくせに」「女のくせに」
- 「ばばあ」「おやじ」
- 「今日は飲むぞ、付き合え、俺の酒が飲めないのか」
- 「お前はほんとダメだな」「使えない奴だな」
- 「こんなことも出来ない(知らない)のか」
職場のルールブックを作成する際には、
- 今起きている規律の乱れ
- 潜在化しているが感じ取れる規律の乱れ
- 今後予測される規律の乱れ
- 絶対にされては困る問題行動
それぞれ優先順位をつけて徹底したいルールを選択するようにしましょう。ルールの数は欲張らず、適当な分量で。
作成には人事や総務担当と共に、また現場第一線意見を踏まえながらルールを作成すると、よりリアルなものが作成でき、活用頻度も上がります。
注意点として、ルールブックは自社ルールとして比較的自由にまとめることが出来ます。しかし当然ながら適法なものであることが前提です。一般的基準からかけ離れた条件の設定も問題となるでしょう。決して自らの視点だけで考えないことです。
例えば、出勤時間等の設定について、中には始業開始の15分前には会社に来いと言う人もいますが、それだと時間設定が曖昧になってしまいます。「俺ルール」ではなく、職場の従業員全員が平等に扱える調整が大事なんです。
職場規律を維持するために
就業規則にしろ、ルールブックにしろ、まず管理職自身がその内容や基準をしっかり理解していることが大前提です。
過去に発生した事案や具体例をもとに、現場リーダー等を含めてしっかり意識付けが必要となります。
従業員への周知は教育記録簿を用いてしっかり指導しましょう。特にルールブックは身近な決まり事ですので、確認や質問を含めてディスカッションさせるなどして、全員が同じ認識をもつことです。
指導教育の基準活用
部下の問題行動について、ルールブックで職場の基準が明確にされていれば、その基準に従った対応をすればよいので、適切な注意指導が可能となります。逆を言えば基準に沿った対応をしなければならず、逸脱してはいけないということです。
新入社員には、入社時に
新入社員入社の際には、まず初めにルールブックを用いて社内ルールを説明することで初期教育の役割を果たし、その後の自己中心的な行動を抑制することにつながります。
定期チェックが維持の鍵
ルールを一度周知して終わりとしては本来の効果を発揮しません。
定期的なチェックがその時々の課題抽出と対応につながります。ルールを示した以上、それらがきちんと守られているか。
どうしても、ルールというものは次第に緩くなります。そこで四半期毎、半年毎などで繰り返し教育や指導することが必要になります。
職場の規律は非常にデリケートです。
人に絶対はありません。ちょっとした緩みが大事になることだってあります。
人の心を制することが出来ない以上、部下を抱える上司は様々なことに対応できるよう、事前策を用いて問題発生を未然に防ぎましょう。
コメント
法律・ルール・マナーは破るためにあります。